2019年にレターアイテムの制作やワークショップを共に行なった、抽象画家の野村佳代さん。幼い頃から海外で暮らした経験を持ち、また画家となる前にも多文化に触れる職場で働いた経験を得たことで、言葉の壁や文化の違いを越えた表現方法・活動を模索されてきた方です。

「画家」というと自己表現をするイメージがありますが、ご自身の経験を糧に野村さんが活動の軸としているのは、自分自身や他の誰か、そして空間や社会、自然と「対話」をしながら心で通じ合うためのエネルギーを感じ、作品に落とし込んでいくこと。ライブドローイングなどその場の空気感を表現したり、Dialogue Drawing® と呼ばれるアートセッションでは、参加された方と対話をしながらその場で作品を描いたりするなど、その空間やその人のために描く、ということを大切にされています。

6年前から時が経ち、もう一度一緒に展示をやろうとなったのが約2年前。それから企画をあたためてようやく今年開催できることに。せっかくなので、何かものづくりも一緒にできたらとお声がけをさせていただきました。
すでにたくさんの作品がある中でも、描き下ろししたいと言ってくださった野村さん。今回は、春夏の季節に合うようなイメージで、野村さんがご自身と対話して作りたい作品をお願いすることにしました。
その中でカキモリが表紙とカードに選んだのは、2つの作品でした。
Sound of life

長い冬を越えた北海道の春は一気にやって来る。桜やライラック、チューリップなど同時多発的に花ひらく。それまで雪に埋もれて白かった世界から想像できないぐらい華やかで美しい。
でも私は、そのカラフルな日々よりも少し前の、雪が溶けて出現する昨秋の落ち葉や何もなかった土から雑草が力強く生えてくる光景の方が好きだ。カラフルさには欠けるが、命そのものの力強さを感じるから。
春爛漫になるその一歩手前こそ、命のメロディーが軽やかに奏でる。そんな命の束を花束に見立てて描いた作品。
Melodious days

ある雨の降る日に描いた。
大粒の雨が大地を瞬く間に濡らし、草たちはより生き生きと、目の前の世界がヴェールに包まれているように見えた。目を閉じ、雨音を聞き入りながら耳を澄ますと、リズミカルに屋根を弾く雨音はまるで全てを浄化し、鳥たちの鳴き声は喜んでいるように感じられた。
晴天であれば感じ入ることができない命の音たち。
人生には雨の日も晴れの日も曇りの日もいろいろな日があるけども、どんな日にもその良さがあるなぁとしみじみ感じた。その音と色と気持ちを作品に昇華させた。
どんな日でも、羽ばたくことができる、という想いと共に。
この作品たちを、メッセージカードとオーダーノートの表紙に。私たちも作品との対話を大切に感じながら、野村さんが感じたままに描かれた作品の空気感を閉じ込めるように、商品のデザインに落とし込んでいきました。

出来上がったメッセージカードは、一面に作品を印刷し、裏側はあえて無地に。お手紙として使ってもグリーティングカードとしても、それから絵を描いたり写真を貼ったりしても良いかもしれません。そして一緒に合わせる封筒も、作品の持つ温かな雰囲気を包むように、少し質感のある紙を選びました。

オーダーノートの表紙は、この2つの作品を切り分け、1枚1枚が作品の一部になっています。絵の質感や色合いをじっくり味わいながら選ぶ楽しみが生まれた表紙となりました。

また、今回の展示限定で、特別に作ったポストカード。原画の印象をなるべくそのままお届けできるように、小さな作品の中から選びました。



野村さんの描く作品は、見るたびに色やゆらめきが違うオーロラのようで、日によって見え方が変わったり、見る角度によって印象が異なったりと、見る人それぞれがその瞬間を楽しめるような気がします。対話を大切に生まれたアート作品が、今度はこの商品を手にする方それぞれが、書くことや贈ることを通して “対話” を楽しんでいただけたら嬉しいです。