洋服と同じように季節やコレクションごとに楽しめるよう、生産のたびに新しい生地を選定して作っているカキモリのノート。ファッションブランドや着物、伝統織物など、これまでのシリーズを経て、今回新しく出会った生地は「遠州織物」でした。

お茶の産地でもある静岡県。工場とお茶畑の風景
遠州織物は、江戸時代より静岡県西部を産地に長く受け継がれてきた伝統ある織物。温暖な気候に恵まれたこの地域では、古くから綿花や藍の栽培が盛んで、江戸時代に綿織物の製造がはじまり広まっていきます。
この遠州織物と私たちを繋げてくれたのが、カキモリのお店のすぐ近くに事務所を構え、日本のものづくりの創出と発展を目指してキュレーション事業を行う糸編さんです。「産地の学校」という、繊維・アパレル業界へ新しく入る方向けに、繊維産業・テキスタイルを体系的に学べる学校を運営するほか、テキスタイルにまつわる事業やメディア、展示など幅広く活動をされています。

糸編代表の宮浦さん
今回、新しいノートを作るにあたり、糸編さんがカキモリのために遠州織物の生地を紹介してくださることになり、遠州織物の魅力を改めて伺いました。
綿織物の名産地として広く知られる遠州織物ですが、その特徴のひとつは生地を織る機械「織機(しょっき)」にあるのだといいます。近代以降、高速で動く織機が生まれ、均一な生地を早く織ることが優先されてきました。その一方で、遠州織物で使い続けられてきたのは「シャトル織機」と呼ばれる、よこ糸をシャトルで1本1本通していく機械。生産効率は落ちますが、よこ糸をしっかり通せる分表面に凹凸が生まれ、こだわりのデザインや質感を楽しめる生地に仕上がることが魅力です。現在でも、この遠州産地では旧式のシャトル織機の保有数が国内最大級で、テキスタイルにまつわる多種多様な工場が集まる地域となっています。

工場をひとつひとつまわりながら、開発中の新しい生地を見つけてくる糸編さん。工場ごとに得意不得意や特色があり、他では出会えないユニークなものや、開発した方の思いなどを伺いながら生地をセレクトしていくのだそう。
そうして糸編さんがカキモリのために選んでくださったのは、4つの工場から集めた5種類の生地。糸編さんの生地を選んだポイントと一緒に、ひとつひとつご紹介していきます。
遠州織物01

生産工場:榛地織物
日本の伝統的な古典柄を現代風にアレンジした企画で、榛地織物が得意とする刺し子ドビー織と絣糸(かすり糸)の組み合わせに挑戦した生地。タイダイ調に染めた華やかな糸は、別注で作ったものです。なかなか生産のできない一期一会の生地です。
ドビー織:連続した幾何学模様が特徴のドビー織機で織られた織物
絣糸:柄を表現するために部分的に染め上げた糸
遠州織物02

生産工場:ぬくもり工房
江戸時代から遠州産地で続く伝統工芸品「遠州綿紬」です。季節によって変わる気温や湿度に合わせ、職人がシャトル織機を丁寧に調節し、ゆっくり作り上げています。富士山をモチーフにした美しい色合いと柄が特徴で、使い込むほどにやさしい風合いが増す生地です。
遠州織物03

生産工場:K TEXTILE
インド綿を使用したモールスキン。光沢を出すシルケット加工をあえてかけず、モールスキン生地の柔らかさを生かしています。最後に生地を揉み込む「液流ワッシャー」で仕上げ、とことん風合いを出した生地です。
モールスキン:モグラの肌のように光沢感とわずかな起毛を持つ厚手の生地
液流ワッシャー:洗いざらしの風合いを出すための加工
遠州織物04

生産工場:古山
中番手の麻の糸を使用した織物をベースにしています。日本伝統の墨を材料に生地の表裏にコーティングを施しました。墨は洗い加工によるアタリや擦れで少しずつ経年変化をしていきます。
遠州織物05

生産工場:榛地織物
手織りの雰囲気を出すために、数種類の糸を組み合わせて工場の撚糸機(ねんしき)で撚糸するところから企画がはじまりました。さまざまなパターンで試織を繰り返し、納得できた色の組み合わせで仕上げました。糸が太いため、低速織機でゆっくり製織しています。
撚糸: 糸を合わせて撚りをかけること
選ばれた生地は A5 notebook と Mini note カバーにあしらい、カキモリの新しいコレクションになりました。A5 notebook は今回のシリーズより栞紐がついて、より本のような仕上がりに。


それぞれの工場の方々がこだわって作った織物を、糸編さんのキュレーションによって作ることができたノートのシリーズ。日本のものづくりにはまだまだ魅力がたっぷりあることを実感した出会いでした。ぜひ実物を店頭や取引先でご覧ください。
