メイド・イン・ジャパンの色を育む人々
ふうっと深呼吸をして、
窓の外を見てみれば
世界は色で溢れている。
途端に
眼の前にある書きかけの手紙が
色あせて見えてきた。
世界はこんなに色に溢れているのに、
溢れる思いは、とてもカラフルなのに。
お仕着せのインクの色は、なんだかつまらない。
そんな思いを抱いていたとき、私たちの出会いがありました。
ターナー株式会社さんは、1946年創業の、大阪に本社を持つ日本の企業です。絵を描く人には、ポスターカラーやアクリルガッシュなどの絵具で、馴染みの深い人も多いことでしょう。
「わたしたちと、一緒にやりましょう。」
力強く声をかけてくださったターナーさんでしたが、
当時、ターナー社には筆記具用インク製品の取扱いがありませんでした。
筆記具用インクの原料は、乾燥を早くしながらも、発色性を求めるために、染料で製造されることが多いのですが、水に弱いことや、退色しやすいという弱点があります。
一方、顔料インクは、発色の良さはもちろん、乾けば水にも強く、さらには染料インクにくらべ、はるかに退色しづらいという強みがあります。
しかし、筆記具に使用するには、その粒子の大きさから、詰まりやすく、メンテナンスも難しいため、他メーカーでは積極的に採用していませんでした。
会長 地平宏さん
「どこにでもあるものだったら、ターナーで作ることはない。ウチの強みである顔料を使って、メイド・イン・ジャパンの、顔料ならではの良さを、より多くの人に知っていただこう!」
ターナー社の得意な分野である顔料での開発を決めたのは、当時社長(現会長)の地平宏さんのひとことでした。
「言うのは簡単。でも実現には長い道のりが必要でした」
と、中島義治さん。
研究室 中島義治さん
中島さんは、研究室・製造の総合責任者です。 長年、絵を描くための画材をつくってきたターナーさんにとって、筆記具用インクの製造は、初めての試みでした。
例えば、絵具は固まる必要があるけれど、 ペンは、乾燥が速すぎても、遅すぎてもいけない。 また、ペン先に詰まっては使い物にならないため、原料の顔料も、絵具で使うものよりさらに一桁細かいナノレベルの粒子を開発。
そして、製品化が実現しました。
インクスタンドでのオーダーメイドインクはもちろん、カキモリで販売しているインク製品として、皆さんにのお手元に届けられています。
製造課の金井孝平さんは、 カキモリや、インクスタンドの “ベースインク”を作っています。
“ベースインク”とは、 皆さんがオリジナルの色をつくる際に使用する原色となるもの。この色が安定していないと、思うような色がブレンドできなかったり、折角つくったお気に入りのオリジナルインクを、再注文できなくなったりします。
製造部製造課 金井考平さん
「普段手がけている絵の具とは違い、インク用の原色は、粘度が低くサラサラしているため、泡立ちやすいのです。そのため、原料をミキサーに入れる際は、ゆっくりと入れたり、回転棒の速度を慎重に調整しています」(金井さん)
絵具にくらべ、一度につくる量の多くない筆記具用のインクは、一度に製造するロットが少ないため、製造タイミングによる再現性の変化も多く、技術的な難易度も高いため、数値での再現だけでなく、その時々の微調整にも大変気をつかうそうです。
検査課の米山藍子さんは、出来上がった色のチェックを担当してくださいます。
出来上がったインクを、試験用の紙(筆記具インク用の特別のもの)にスポイトで置き
ぐっと伸ばす
「計測装置で数値を測るだけでなく、眼と手でも確認します。なめらかな書き心地と、美しい色合いを実現するためには、こうしたチェックが欠かせません。」(米山さん)
検査課 米山藍子さん
米山さんは、大阪芸大の油画科の出身。ご自身でも日常的に絵を描くご経験が、使う人の立場に立った微妙なニュアンスの実現に役立っているそうです。
生み出す人。
考える人。
確認する人。
製造する人。
色のてまえ。
そこには、たくさんの人がいます。
世界を、
思いを、
彩るために。
人が出会い
今日も、新たな色が生まれています。